2019年6月


 いい加減にしろ〜い(2019年6月26日・vol.291)  

 本日、革命戦士の長州力さんが引退試合(2回目だっけ?)をされるそうです。あの重戦車のように相手をなぎ倒すラリアットがもう見られなくなると思うと残念です。
 
 さて、最近、また、電話による「光回線サービスの卸売に関する勧誘」が多いです。普通の携帯電話の番号(080)でかけてきますので出ないわけにもいかず、仕事の邪魔になるのでちょっと質が悪いなと感じます。これは、いわゆる「転用(契約形態をNTT直接から卸売業者に簡単に切り替える)」の勧誘ですが、「安くなるので皆さん当然に乗り換える」ことを前提にしたかのような口調で捲し立てられるので、話を聞く側もある程度の情報を持っていないと何のことかよくわからないまま契約が進められそうな雰囲気が大いにあります。これって結構前から消費者契約のトラブル事例に挙げられているにもかかわらず、相変わらずな感じですよね。もし、よくわからないまま契約してしまった場合でも、「初期契約解除制度(電気通信事業法第26条の3)」というもの(特定商取引法のクーリング・オフみたいな制度)がありますので、契約を取りやめたい場合は、早急に対処された方がよいでしょう。クーリング・オフと違って解除が遅れると費用負担が発生する場合がありますのでご注意を(同条3項但書、同法施行規則22条の2の9)。詳しい情報は、国民生活センターのHP等をご覧ください。


 反対債権の時効消滅と受領済み代金の行方(2019年6月19日・vol.290)  

 最近、開業以来通してきた名刺のデザインを変更しました(メーカーも含め)。以前の名刺は押箔の法務省マーク付で白黒文字のみ片面印刷でしたが(よくある司法書士の名刺パターン)、新しい名刺はカラー有両面印刷(裏面は業務項目)としました。デザイン的にも効果的にも、断然、今度の名刺の方が気に入っていますが、値段も従来の半額以下で作れましたので、お得でした。やっぱりたまには企業努力もしないといけませんよね。

 さて、今回のネタは、同級生のO司法書士からの質問にちょっとアレンジを加えたものです。

Q,対象物件(農地)に約50年前に登記された条件付所有権移転仮登記(条件は農地法5条の許可)の抹消登記手続を行うにあたり、相手方(買主・仮登記名義人)に抹消登記手続の請求を行ったところ、任意での登記手続への協力は得られるものの、反対に、支払い済みの売買代金200万円の返還を求められました。任意で抹消登記手続に協力してもらえるなら返還しようかと思うがどうか?

A,基本的には、以下のように考えます。
1.仮登記がなされた時期から考えて、数度の時効の中断(改正民法では時効の更新)がない限り、農地法の許可申請手続協力請求権は時効により消滅している可能性が高い。

2.そこで、消滅時効を援用すれば、許可申請協力請求権は時効により消滅し、その結果、本件仮登記にかかる条件は不成就に確定するので、本件仮登記の抹消登記手続を請求する理由(原因事実)は存在する。

3.では、許可申請協力請求権の時効による消滅に伴う条件付所有権移転仮登記の条件不成就の確定を理由として本件仮登記の抹消登記手続を請求した場合の相手方(買主・仮登記名義人)の反論として、「それじゃあ、こちらも契約をした意味がないので支払った売買代金は全額返してよ」ということは言えるのか。これが本題です。

4.まず、土地の売買契約は双務契約であり、当事者の双方がお互いに債務(義務)を負います。通常、買主は@代金支払義務、売主はA農地法許可申請手続協力義務、B土地の引渡義務、C所有権移転登記申請義務などを負います。なお、@とB及びCは同時履行の関係(民法533条)になりますが、今回は@だけが50年前に履行済みということです(Aの許可が下りないとBとCの履行はできません。そんな事情からとりあえず条件付仮登記がなされていると考えられます)。

5.次に、仮に、本件売買契約が、例えば契約から1年後くらいの時期に農地法の許可申請手続協力義務の不履行により解除された場合、契約の当事者は、今度はお互いに原状回復義務(民法545条)を負います。買主は@仮登記の抹消登記申請義務を負い、売主はA受領済みの売買代金返還義務を負います。また、@とAの債務は、これまた同時履行の関係になります(民法546条)。

6.それでは、今回のケースのように、当事者の一方(買主)の有する債権(買主の許可申請協力請求権)が時効により消滅した結果として条件付所有権移転仮登記の条件が不成就となった場合において、売主からの仮登記の抹消登記手続請求に対して、買主は契約解除の場合と同様に、同時履行の抗弁を理由として売買代金の返還債務の履行がない限り仮登記の抹消登記手続には応じない、との主張はできるのでしょうか。

7.基本的な考え方として、今回のケースの場合、許可申請協力請求権は時効により消滅しますが、それに伴ってその権利発生原因である売買契約自体についても遡って失効するような理由は何らありません。売買契約自体は依然として有効であり、ただそこから発生した権利の一つが時効にかかって消滅したに過ぎないのです。そして、時効により消滅した原因は、買主の長期間の権利不行使であり、これは買主側の責任です。

8.よって、依然有効な売買契約の履行行為(先履行)として既になされている売買代金の支払いについては、支払義務が有効に存在している以上、その返還を請求することはできないものと考えます。そして、売買代金の返還義務が存在しない以上、仮登記の抹消登記手続請求に対して、同時履行の抗弁として売買代金の返還請求を主張することもできないと考えます。

9.「えー、それって不公平じゃん」という声が聞こえてきそうですが、それは権利の上に50年間眠っていた貴方(買主)が悪いのです(権利の上に眠るものは保護に値せず・・・出ました、法格言)。なお、事情によっては、権利濫用の法理(形式的には確かに権利はあるが具体的な事情や権利行使の結果に鑑みてそれを行使することは権利本来の目的を逸脱しているので実質的には権利の行使を認めないという理屈、民法1条3項)などにより、消滅時効の援用が認められないケースもあると思いますが、そこはもう裁判所の判断領域でしょう(交渉段階で権利濫用とか言ってもまず通じません)。

 とまぁ、こんな風にとりあえず答えたものの、自信のない小心者は、念のため同様の事例がないか判例調査すべく、一生懸命探しましたところ、「Oさん、見つかりましたよ!!」

(参考裁判例)
 ・東京高等裁判所平成12年10月26日判決(抜粋)
 「被控訴人は、仮に被控訴人の許可申請手続協力請求権が時効により消滅したとしても、本件売買契約自体が失効するから、被控訴人は代金返還請求権を取得し、所有権移転仮登記の抹消登記手続義務と売買代金返還義務とが同時履行になると主張するが、本件売買契約のような双務契約において、控訴人の被控訴人に対する一方の許可申請手続協力義務が消滅時効の完成により消滅しても、本件売買契約自体が当然に失効するものとはいえないから、被控訴人の控訴人に対する売買代金支払義務が遡及的に消滅するものでなく、控訴人に当然に売買代金返還義務が生ずるということはできない。したがって、被控訴人の本件抹消登記手続義務と控訴人の売買代金返還義務とが同時履行の関係にあるとする被控訴人の主張は、主張自体失当である。」
 (注1) 被控訴人=買主 、 控訴人=売主

 (注2) ちなみに、原審(宇都宮地方裁判所栃木支部)は、条件不成就により「前記売買契約は失効し、被告は原告に対し原状回復義務として前記仮登記の抹消登記手続をすべき義務があることになるところ、それは、原状回復義務としての原告の被告に対する前記代金返還義務と同時履行の関係にあるものというべきである。」とまったく逆の判断をしています。

 なお、上記東京高裁判決の上告審(最高裁判所第二小法廷平成13年10月26日判決)では、要旨「農地を農地以外のものにするために買い受けた者は、農地法第5条所定の許可を得るための手続が執られなかったとしても、特段の事情のない限り、代金を支払い農地の引渡しを受けた時に、所有の意思をもって農地の占有を始めたものと解するのが相当である。」として、買主に取得時効が成立している(つまり本件農地の現所有者は買主である)ことを認め、仮登記抹消登記手続請求を理由なしとして排斥しています。この判例は有名なので司法書士の皆さんは割とご存知でしょう。
 よって、本事例の場合でも、相手方(買主)に本件土地の占有が移っており、しかも取得時効を満たすような期間その占有が続いているような場合は、反対に相手方(買主)から取得時効を主張される可能性もあるというわけです(ヤブヘビ?)。

 以上、Oさん、ご参考まで。