2015年8月


 遺産分割と相続登記あれこれ(2015年8月19日・vol.230) 

 今年もお盆が終わりましたが、お盆と言えばお盆休みを利用して実家に親族が集まり、普段できないようなお話をされた方も多いことでしょう。そして、お話の内容として、故人の遺産分けの話題があがったケースも少なからずあったと思います。
 そんなわけで、今回は、遺産に不動産がある場合における遺産分割とそれに基づく相続登記の手続について、以下に場合分けして検討してみましょう。

1.すんなり成立パターン
 遺産分割の話し合いが相続人間で揉めることもなくすんなり成立した場合は、速やかに遺産分割協議書を作成して、当該書面に相続人全員が署名及び登録実印を押印し、相続人全員の押印した印鑑にかかる印鑑証明書を添付のうえ、管轄の法務局へ遺産分割協議の内容に従った相続を原因とする所有権移転登記(すでに法定相続分に基づく相続登記がなされている場合は遺産分割を原因とする所有権持分移転登記)を申請しましょう。なお、遺産の一部についてのみ協議が成立した場合も同様です。

2.まったく協議が調わないパターン
 遺産分割の内容において相続人間で協議が調わない場合、あるいは、遺産分割の協議の席にすら着こうとしない相続人がいる場合等、相続人間の任意の協議では遺産分割が成立する見込みがない場合は、頃合いを見て家庭裁判所に遺産分割の調停(調停も不成立の場合は審判に移行)の申立てを行い、家裁での調停手続による遺産分割の成立を目指しましょう。調停での遺産分割が成立すれば、当該調停調書を添付のうえ調停の内容に従った相続登記(遺産分割による持分移転登記)を速やかに管轄の法務局へ申請しましょう。

3.協議書に印鑑を押さないパターン
 相続人間の協議により遺産分割が成立したのに(口約束でも成立します)、いざ調印の段階になって一部の相続人が印鑑を押さないと言い出した場合は、不動産を取得することとされた相続人が押印を拒否している相続人を相手に所有権確認訴訟を提起し、その勝訴判決(理由中に遺産分割協議により当該不動産を相続した旨記載あり)の判決書と他の相続人全員の署名押印及び印鑑証明書が添付された遺産分割協議書を添付して、単独で相続による所有権移転登記を申請することができます(参考先例:平成4年1月4日民三第6284号回答)。なお、相続人全員が所有権確認訴訟の当事者となっている場合は、当該訴訟の勝訴判決の判決書のみをもって相続登記が可能とされています。また、すでに法定相続分による相続登記がなされている場合においては、拒否している相続人に対する持分移転登記手続請求の給付訴訟を提起することになります。

4.協議書に印鑑を押したのに印鑑証明書を交付しないパターン
 相続人間の協議により遺産分割が成立し、相続人全員が印鑑まで押したのに、一部の相続人が印鑑証明書の交付を拒否した場合は、拒否した相続人に対して遺産分割協議書真否確認の訴えを提起し、その勝訴判決をもって、拒否した相続人の印鑑証明書に代えることができるので、遺産分割協議書(他の相続人全員の印鑑証明書付き)と判決書を添付して、不動産を取得した相続人が単独で相続登記を申請することができます(参考先例:昭和55年11月20日民三第6726号回答)。なお、すでに法定相続分による相続登記がなされている場合においては、拒否している相続人に対する持分移転登記手続請求の給付訴訟を提起することになります。

 3や4のパターンについては、あまり無いと思われるかもしれませんが、例えば、帰省先の実家で遺産分割に合意して後日押印する又は印鑑証明書を交付する約束をして自宅に戻った相続人がその配偶者等から協議内容について叱責を受けて翻意し、協議書への押印又は印鑑証明書の交付を拒否するに至るようなケースは、今のご時勢においては、十分に想定できると思われます(名付けて「外野口出し紛争パターン」)。したがって、遺産分割協議の成立が確実であれば、3や4の解決方法も検討する余地は十分にあると思います。


 割増賃金(残業代)の支払請求(2015年8月1日・vol.229) 

  今日から8月ですが、毎日茹だるような暑さが続きます。そんな暑い日が続く中、余分に働かせておいて相応の賃金が支払われないというのは、労働者にとっては酷な話です。というわけで、今日は賃金や残業代についての請求の実務の基本的なことについて、以下に思い付くまま掲げてみます。なお、詳しいことは専門書で調べるなり、専門家に相談するなりしてください。

1.賃金は、原則として、労働者に「直接」、「全額」、「通貨で」、「毎月1回一定の日に」支払うべし(労基法24条) → 勝手な相殺、天引きは許されません

1.最低賃金は守られていますか?兵庫県は776円

1.非常時前払いも可能(労基法25条)、遠慮は無用

1.会社責任の休業時には休業手当ももらえます(労基法26条)

1.賃金、残業代の時効は早い(労基法105条)、ためこむ前に相談を!計算する前に請求を!!

1.未払い賃金、残業代には遅延利息も忘れずに(原則年6パーセント、退職後は年14.6パーセント(賃確法6条2項))

1.裁判するなら付加金請求も忘れずに(労基法114条)

1.そもそもその残業は適法ですか?36協定の締結、届出と就業規則の確認をしましょう!!(労基法36条)

1.休日出勤、残業、深夜労働をした場合は割増賃金(労基法37条)の請求をすべし→ 日本の労働時間の制度は複雑過ぎ(変形労働時間制、みなし労働制、適用除外事業云々)ですが、まずは自分の勤務形態と実労働時間の把握に努めましょう

1.割増賃金の計算の基本は、実質賃金の時給、労働日と労働時間、割増率の算定→計算ソフトも出回っています

1.労働時間の証拠はいろいろ(タイムカード、業務日誌、デジタコ、警備記録、パソコンログ記録、本人や家族のメモ等々)、ほとんど無くても挫けず労働審判制度(実質、労働事件専門の調停)の利用も考えましょう

1.支払わないまま倒産した場合は、未払い賃金の立替払制度を積極的に利用すべし