2018年10月


 相続分の無償譲渡と遺留分減殺(2018年10月20日・vol.280) 

平成29年(受)第1735号 遺留分減殺請求事件
平成30年10月19日 第二小法廷判決
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88060

 相続で揉めて相続人間での話し合いでは解決できないときは、最終的には家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをして解決を目指しますが、その際は、相続人の一人が「自分が遺産を多く取得することに賛成してくれる他の相続人(例えば、父親の遺産相続における母親)から無償で相続分の譲渡(贈与)を受ける」ことは実務上よくやる手法です(味方派閥の相続人の権利を集約し実質的に争っている相続人を絞って遺産分割調停を行うための一方法)。
 この手法を採った場合において、後日訪れる母親の相続の際に、残された母親の遺産がほとんど無い場合には、先の父親の相続の際の母親の相続分の無償譲渡が原因で今回相続できる遺産が無くなったとも言えるため、今度は母親の相続においても紛争になることがあるのです。
 そして、この場合において、「先の遺産分割調停の際の相続分の無償譲渡は民法903条1項の特別受益に該当し、その相続分の譲渡の価額を後の母親の相続における遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべきかどうか」について争われ、今回の最高裁の判決が出されました(詳細は、裁判所のホームページで確認を)。
 調停事件に限らず、相続分の無償譲渡は遺産分割の実務においてよく使う方法ですので、今回の判例の相続手続の実務への影響は「大」でしょうね(将来もう1回揉めることを覚悟でやらざるを得んということかな?)。


 見落としやすい相続物件(2018年10月11日・vol.279) 


 うちの自宅住所はいわゆる「飛地」。きっと、昔は農地で住所名の村の人がこの土地を耕しておられたのでしょう(その土地を開墾したあるいは耕作しているお百姓が所属する村の名前が付されたそうです)。

 さて、過去の相続手続において見落とされていた不動産に関する相続登記手続も司法書士のある意味メジャー(?)なお仕事ですが(専門家が見落とした場合は過失が無くても責められそう・・・)、結構多い見落としのパターンが「親子共有建物」の失念です。
 まず、ここでいう親子共有建物とは、例えば、実家から独立した二男が住宅を建てる際に親が費用の一部を援助したため、完成した建物の登記名義も税金対策等を考慮して出資割合(子が1500万円、親が500万円)に応じた親子共有名義(子4分の3、親4分の1)にしている建物をいいます(中古住宅の購入の場合でももちろん同様、最近は住宅取得資金贈与の非課税の制度があるのでこのパターンも減っているのかもしれませんけどね)。
 このような親子共有建物については、皆さん、後日になっても親にお金を出してもらったことはよく覚えておられますが、登記名義を当時どのようにしたかについては、あまり覚えておられないケースが結構あります。
 また、先の例のように、親子共有建物の持分割合は子の持分割合の方が多いケースが比較的多く、また、固定資産税については子が支払うのが通常ですので、固定資産税の課税台帳においては、子が筆頭者(納税義務者)として登録されている場合が多いです。したがって、相続の際に市役所等において被相続人名での名寄帳を取ってみても、件の共有建物が被相続人所有物件として挙がってこない場合がよくあります(←市役所窓口で共有物件も念のため調べてと言ってみも必ずしも見つけてもらえるわけではない)。
 そんなわけで、遺産の中に含まれている親子共有建物は、司法書士等の専門家が積極的に相続人の方に注意喚起して過去の事情を聴取するか、あるいは、相続人の方が自発的に依頼する専門家に申告されない限り、見落とされてしまいがちなのです。そして、一連の相続手続が終わった後日において(例えば、住宅ローンの完済時の抵当権抹消登記の時とか)、被相続人名義の共有持分の登記が残っていることが分かり、あらためてその漏れていた共有持分の登記について、相続登記手続をしなければならないことになります。
 また、このような遺漏物件について、後日、相続登記手続を行う場合、通常、あらためて遺漏物件に関する遺産分割協議を行うことになりますが、先の相続手続の際の遺産分割協議の内容と抵触してしまう場合が結構多いです。例えば、先の遺産分割協議の内容が、「不動産は全て長男が取得する」とか「協議書に記載のない遺産あるいは後日判明した遺産については、長男が取得する」とか定められている場合です。このような場合において、失念していた二男居住の親子共有名義の建物に関する被相続人(親)名義の共有持分を二男が取得するには、先の遺産分割の内容を修正せざるを得ません。その場合、相続人間でスムーズに再協議ができればよいですが、当時の相続人が死亡しさらに相続が発生していたり、先の遺産分割が結構揉めて調停になっていたり、先の遺産分割が原因でその後相続人間の仲が悪くなっていたりする場合は、なかなか再協議は難しいこともあるでしょう。また、相続税の申告・納税を要する事案であれば、修正申告等が必要になったりもするのでしょう(税理士さんが漏らして申告されているケースもチラホラ拝見します)。
 こうして考えると、相続手続において遺産(特に不動産)が漏れると後々結構面倒なことになることが分かります。皆さん、相続手続は1回で済ませられるよう、遺産の確認はくれぐれも慎重に行いましょう。