2015年12月


 数次相続の遺産分割と利益相反(2015年12月11日・vol.235) 

(設例)
 被相続人A名義の甲土地について相続登記を行うにあたり、Aの相続人は子Bと子Cの2名であるが、CはAの相続開始後に死亡しており、亡Cの相続人はその妻DとCD間の子E(未成年)のみである。この場合において、甲土地をBが取得する内容の遺産分割協議を行う場合、Bと亡Cの相続人D、Eの3名が協議を行うことになるが、Eは未成年者であり、DはEの親権者(法定代理人)であるため、未成年者Eについて民法826条1項の親と子の間の利益相反行為に関する特別代理人の選任を要するか。

(検討)
 設例の場合、本来であればBとCが遺産分割協議を行うところ、Cが遺産分割協議をしないまま死亡したため、亡Cに代わってその相続人であるDとEが協議を行っているのですが、この場合、遺産である甲土地をBか亡Cのどちらが取得するのかについての遺産分割協議を行うのであるからDとEの間に利益相反の関係が生じないことは実質的にも形式的にも明らかであるため、Eについて特別代理人を選任する必要はないと考えます。
 よって、設例の遺産分割協議は、BとD(未成年者Eの法定代理人も兼ねる)が参加して行えばよいと考えます。
 なお、設例の場合において、亡Cが甲土地を取得する旨の遺産分割協議も同様の形で行うことが可能ですが、その後に亡Cが取得した甲土地について行うDE間の遺産分割協議については利益相反行為になるのは言うまでもなく、この場合にはEについて特別代理人の選任が必要です。

 未成年者とその親が参加する遺産分割が何でもかんでも利益相反行為になるわけではないということですね。


 借地権と対抗問題(2015年12月5日・vol.234) 

  例えば、借地人Aが賃料を支払って借りている甲土地の所有者B(賃貸人)が、甲土地を第三者Cに売却しその所有権移転登記をした場合において、AがCに対し、甲土地の借地権(土地賃借権、以下同じ)を主張するためには、当該借地権について第三者対抗要件を備えなければなりません。もっとも、借地権の対抗要件の備え方については、借地権の目的によって特則があったりしますので、借地権の目的別に検討する必要があります。

1.原則(民法の対抗要件)
 民法605条は、不動産賃借権の対抗要件の備え方について、「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。」と規定しています。したがって、借地権の第三者対抗要件の原則は、借地に対する賃借権の設定登記を行うことということになります。ただし、賃借人は賃貸人に対し、登記請求権を有しないとするのが裁判所の判例ですので、借地人が地主(賃貸人)に対し、賃借権の設定登記を行うよう請求することは特に契約上で合意していない限りできません。

2.特則(借地借家法の対抗要件)
 借地借家法10条1項は、「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。」と規定しています。したがって、借地人が「建物の所有を目的」として土地を賃借し、当該土地の上に登記をした建物を所有するに至った場合は、当該事実をもって土地の借地権について第三者対抗要件を備えたことになります。なお、この建物の登記については、表題登記か権利登記かを問いません。借地人が自らの所有する建物について登記を備えることは地主(賃貸人)の協力なしに可能ですので、建物所有目的の借地権の第三者対抗要件については、借地人に一定の保護が与えられているといえそうです。

3.特則(農地法の対抗要件)
 農地(耕作の目的に供される土地、田及び畑)及び採草放牧地(農地以外の土地で、主として耕作又は養畜の事業のための採草又は家畜の放牧の目的に供される土地)の賃貸借の第三者対抗要件について、農地法16条1項は、「農地又は採草放牧地の賃貸借は、その登記がなくても、農地又は採草放牧地の引渡があったときは、これをもってその後その農地又は採草放牧地について物権を取得した第三者に対抗することができる。」と規定しています。よって、農地と採草放牧地については、借地人が当該農地等の引渡を地主(賃貸人)から受けることをもって借地権の第三者対抗要件を備えたことになります。

4.設例の検討
 以上の基礎知識を前提に最初の設例を検討してみると、まず、甲土地の使用目的が駐車場や資材置場等の場合、借地人Aは甲土地の借地権について登記を備えていれば第三取得者Cに対して、借地権の存在を主張することができそうです
 次に、甲土地の使用目的が建物所有であり、借地人Aが甲土地上に登記をした建物を所有している場合は、借地人Aは第三取得者Cに対して甲土地の借地権を主張することができそうです。
 最後に、甲土地が農地又は採草放牧地であり、借地人Aが地主Bから甲土地の引渡を受けて耕作している場合は、借地人Aは第三取得者Cに対して甲土地の借地権を主張することができそうです。なお、農地の賃貸借自体についてはいうまでもなく農地法の許可が当然必要です。